INTERVIEW

新しいタクシーをつくる。
それは、美しい日本の景観を
生み出すことでもある。

商品企画H.K

PROFILE

JPN TAXI チーフエンジニア

工学部卒 1984年入社

これまでにプリウスα、シエンタ、ジャパンタクシーなどの製品企画・開発に携わる。大学で機械工学を専攻したのも、トヨタ自動車を志望したのも、とにかくクルマが好きだったから。「トヨタのエンジニアになれば、仕事でどんなクルマにも乗れるよ」という先輩の言葉が入社の決め手に。「今後は高齢化社会でも安全に楽しく運転できる、新しいこの国のコンパクトカーを手がけていきたいですね」。

社会は、人は、タクシーになにを求めているか

22年ぶりに、タクシーが生まれ変わる。その開発プロジェクトをスタートさせる前に、まずわたしたちが取り組んだのは徹底的な調査でした。街で見かけるセダン型タクシーのほとんどは、トヨタが1995年に発売したモデル。その頃とは、世の中もずいぶん変化したはずです。「社会は、いまタクシーになにを求めているか」を知らなくてはならない。タクシー事業者への詳細なヒアリングはもちろん、駅や病院、観光地などにチームで出向き、タクシーの利用者数、利用目的、時間、距離などを定点観測。「実習生」の名札をつけて、24時間交代で助手席に乗せてもらったこともありました。とにかく膨大な量のドライバー、カスタマーの「生の声」を集める。その結果、進むべき方向性が見えてきたのです。

たとえば、病院などでは高齢者や身体の不自由な方が乗り降りに苦労している光景にしばしば出くわしました。セダン型ではドアが邪魔になってしまう。ときには、同乗者が車内から引っぱるようにして乗せる姿も。お客さまだけでなく、ドライバーにも60代、70代が増えているいま、タクシーの安全設計・バリアフリー化は急速な課題となりました。

また、1日平均20時間稼働する事もあるタクシーでは、燃費性能やランニングコストも無視できません。街中での待機や低速走行も多いので、もちろん環境にもやさしくなければならない。同時に、東京オリンピックをひかえ、外国のお客さまも安心して利用できる、日本を象徴するデザインにしていきたいとも考えました。調査期間は異例ともいえる1年以上。満を持して、一大プロジェクトが幕を開けたのです。

使う人にも、運転する人にも、愛されるクルマを

使う人にも、運転する人にも、
愛されるクルマを

ユニバーサルデザインのタクシー専用車の開発はトヨタでも初めての試み。高齢者も子どもも身体の不自由な方も、スムーズに乗り降りできるよう、ゼロから考え、かたちにしていくのは、簡単ではありません。アシストグリッドひとつにもこだわり、使いやすさと耐久性を追求して何度も試行錯誤を繰り返しました。大きな特徴としては、後部座席をチップアップし、助手席を前に倒して、内蔵されたスロープを開けば、車椅子のままフラットに乗車できること。福祉タクシーではなく、あくまでも外観は「ふつうのタクシー」が、これらの機能性を兼ね備えることには大きな意味があります。車椅子の方が街で走っているタクシーを気軽に利用し、自由に移動できる世の中をつくるからです。

また、もうひとつの「初挑戦」は、LPG(液化石油ガス)ハイブリッドシステムの開発でした。今のタクシーが使っている燃料を使えば、インフラもそのまま利用できる。ストップ&ゴーを頻繁に繰り返すなどタクシーの特殊な走行パターンとの相性も綿密に検証しながら、HV技術を織り込み、小型・軽量の1.5L-LPG専用ハイブリッドエンジンを生み出しました。

このような開発プロセスで大切にしたのは、タクシー事業者の意見をいただき、ディスカッションを重ねる時間。それは、「利用者はもちろん、運転するドライバーにとっても、ベストなタクシーでありたい」という、わたしたちの思いの表れでもあったのです。

逆境を乗り越える原動力は、その車名にある

しかし、完成後の内覧会で待っていたのは、タクシー業界からの強い反発でした。「セダンじゃなければ、タクシーじゃない」と考える人々が、驚くほどたくさんいたのです。「見慣れないデザインのクルマがお客さまに受け入れられなければ、わたしたちの商売は終わる。旧型の製造を中止する?トヨタはなんてことをしてくれるんだ」と。

それを説得するのは、文字通り「死ぬほど」大変でした。北海道から沖縄まで、全国に自ら足を運び、「なぜこのタクシーをつくったのか。それはタクシー業界にとっても、これからの日本にとっても、いかに必要なことなのか」を、ひたすら語り続けました。燃費がよくランニングコストの低減に貢献できる、人にも環境にもやさしいクルマの特徴を示すために、ドライバーの方々に試乗もしていただきました。歴史ある業界に、新しいものを受け入れてもらう。それには、想像以上に長い時間がかかります。しかし、わたしたちの意志は揺らぎませんでした。「これからの日本に、いちばん愛される存在に」。ジャパンタクシーという車名には、そんなトヨタの使命と誇りが込められているのですから。

新しい未来が見渡せる。そんな日も近い

新しい未来が見渡せる。
そんな日も近い

単に新しいタクシーをつくったのではなく、ジャパンタクシーの普及が、いろいろな変化のきっかけになってほしいと願っています。たとえば、電車やバスなど他の公共交通機関の完全バリアフリー化や、人や環境にやさしい街づくりにつながったらうれしい。

また、24時間365日に近い時間を走行して得られた要件が、今のクルマの品質と耐久性を作ってきたように、コネクティッド技術や自動運転を支える役割をタクシーが担う事があるかもしれません。タクシーからのどこで混んでいるか、雨が降っているか、交通規制が行われているか、それらの情報をリアルタイムに収集・分析し、渋滞の緩和や安全対策につなげる、あたかも自走式のセンサーのように。そして、蓄積されたデータを活用して3次元マップを制作・更新していけば、将来的には自動運転技術に役立てることができます。これが実現すれば、まさに日本の交通社会を進化させる大きな一歩になると思います。タクシーには公共交通として移動の自由をもたらすだけではない大きな可能性が秘められています。

「新しいタクシーで、日本の街の景観を変える」。開発がスタートするときに、そう社長と話したのを覚えています。ジャパンタクシーのコンセプトカラーは、日本の伝統色である「藍色」。オリンピックまでに東京だけで約1万台、藍色のタクシーが美しく街を彩る。そんな景色を想像するだけで、心が弾みます。高めの天井を活かした大きなリアウィンドからもまた、新しい日本の未来が見渡せる。そんな日を迎えるのは、もう間もなくです。

所属は取材当時のものです。

社員インタビュー INDEXヘ