INTERVIEW

予測できないからこそ、おもしろい。クルマの未来へ。その舵は、私たちが握っている。

商品企画K.S

PROFILE

LEXUS LC500 チーフエンジニア 理工学部卒 1992年入社

学生時代は代替燃料で稼働するディーゼルエンジンを研究。世界最大級の自動車メーカーで自分の力を試したいと入社。エンジニア志望だったが、希望通りの配属とならずショックを受ける。しかし、その後のさまざまな出会いから「エンジンだけでなく、クルマ全体で世の中に貢献したい」と考えるようになり、チーフエンジニアを目指す。LEXUS LCの開発中には、一人ひとりの技術者たちの挑戦、思いを伝えるインナー向けブログを自ら執筆。更新は100回以上に及んだという熱いエピソードも。休日は愛車のTOYOTA SUPRAでドライブをこよなく愛す車好き。

自分たち自身を変革するために

「これはクルマになりません」。

1989年初代レクサスLSが発表されたとき、世の中に大きな驚きをもたらしました。それまでカテゴリーとして存在しなかった日本のラグジュアリーカーが、圧倒的なクオリティと静粛性、さらに魅力的な価格で欧州の名車の牙城を崩したのですから。それから約20年、レクサスブランドの確立とともに、やや守りに入っていたかもしれない時期。2012年のデトロイトモーターショーで、デザインコンセプトカーとして参考出展された「LF-LC」が、国内外のジャーナリストや販売店、お客様から絶賛されたのです。「ぜひ、このクルマを開発してほしい」。そんな声に後押しされ、「次世代のレクサスの姿を示そう」という、LCの開発プロジェクトが立ち上がりました。その責任者であるチーフエンジニアに任命された私が、当時のTOPに伝えたのが、冒頭の言葉でした。

そのデザインは確かに美しく、人を魅了する。しかし、エンジニアの目線で見れば、到底クルマになるとは思えない。フードが低すぎてエンジンも、サスペンションも入れるスペースがない。少しずつ修正すればいい? いや、その積み重ねが、せっかくのプロポーションを崩してしまうことになる。世の中の期待を裏切るぐらいなら、退く勇気を持つべき。そう考えたのです。しかし、その直後、豊田社長の口から出た一言が、私たちを突き動かしました。

「できないから、やるんだ」。

レクサスも、自分たちも、変わらなければこのクルマはつくれない。これは自分自身を変革するための挑戦なんだ、と。そんなことを言われたら、技術者として、いや一人の人間として、熱くならずにはいられません。思わず首を縦に振った瞬間、5年間の長い闘いが始まりました。

機能美を突き詰めると、究極のデザインに着地する

機能美を突き詰めると、
究極のデザインに着地する

「実現できない理由を説明する」開発初期にチームに多く見られた行動です。しかし、これは何も生み出さない。エンジニアにとって一番大切なのは、「無から有を生み出すクリエイティビティ」だと思うのです。LCの開発は、まさにそのチャンス。目の前の壁が高いほど、奮起する。苦しいけれど、楽しい。ものづくりとは、そういうものです。その想いが伝わると、挑戦者が少しずつ現れ、徐々にチームの雰囲気が変わっていきました。

あの絶賛されたデザインを、いかに実現するか。それは表面上の美しさを追うことではなく、レクサスブランドの「次世代」の姿を見出すこと。レクサスにしかない強烈な個性を求めました。「より鋭く、より優雅に」をキーワードに、ハンドリング、加減速など、全体から醸し出される「乗り味」を追求。そのために、マルチステージ・ハイブリッド、10速ATなど、こだわった技術に触れればきりがありませんが、特にエンジニアとして大切にしたのは、旋回性能を良くするための、運動力学上で優れた車両パッケージ。実はそれは、デザイナーが求める、フードが低く、キャビンはやや後方、タイヤを四隅に構える、いわゆるFRらしい美しいプロポーションを追求することと同じなのです。

つまり、独自の「乗り味」をつくる機能性を磨き上げた結果、あのデザインにたどりついたのです。これは、「原理原則に立ち返って、素性の良さにこだわる」という初代レクサスLSを生んだ先輩たちの「源流主義」とまったく同じ考え方でした。この我々のものづくりのDNAが、開発に関わった4,000人以上の社員、さらに協力会社の方々にも脈々と受け継がれ、次世代レクサスのフラッグシップクーペが誕生したのです。

左脳ではなく、右脳がよろこぶ「愛車」でありたい

「ナンバーワンではなく、オンリーワンになりたい」。

LCの開発にあたって、強く思っていたことです。お客さまがラグジュアリーカーを選ぶとき、スタイリングはもちろん、加速の気持ちよさ、ハンドリングの滑らかさ、エンジン音の心地よい響きなど、「感性価値」が大切になるからです。例えば、テストコースで追求し続けたのは、ハンドルを切ったときの「すっきりした感覚」。これはもう、機械では計測できない領域で、ドライバーの手で感じとるわずかな違いでした。

なぜ、そこまでこだわるのか。私たちは「クルマはいつの時代でも『愛車』と言われる存在でいてほしい」と願うからです。「クルマを所有するよろこび」を味わっていただきたい。めざすのは、左脳ではなく右脳で感じるクルマです。そして運転を楽しむだけでなく、このクルマに似合うジャケットを買う、素敵なレストランに行って食事をする、隠れ家的な温泉旅館に足をのばしてみる。さまざまなライフスタイルを彩る存在でありたいと思っています。もっとおもしろく、もっと無限の価値を。夢を語り、それを実現するクルマを無心でつくっている。それが、今の私たちなのです。

エンジニアの発想が、クルマの未来を描いていく

エンジニアの発想が、
クルマの未来を描いていく

クルマが提供するのは、もう「モノ」の価値だけはありません。お客様の暮らしに寄り添い、日々を便利にする、快感を与える、大切な人との思い出をつくる、そんな「体験の価値(コト)」をもたらす存在になれる。そして、その価値は、技術力があるだけでは生まれません。「テクノロジーをどう使うか」というエンジニアの発想が、生み出すのです。だからこそ技術者には、もっと世の中を見渡し、ユーザーを知り、いろいろな体験をしてほしい。視野を広げ、エネルギーを蓄え、アイデアの泉を自分の中に持ち、自分たちのセンスを磨くために。

自動運転、燃料電池自動車、コネクテッドカー…、未来は変わり始めています。今開発されているクルマは、30年前の技術者には想像できたものかもしれません。しかし、いまから30年後、いや15年後でさえ、クルマはどう変わるか予測できる人は、いないでしょう。先が読めない時代、その渦中にいる歓喜、興奮、緊張を味わえるのは、技術者として幸せなことです。想像もできないパラダイムチェンジが起こるかもしれません。しかし、その混沌としたカオスから一歩踏み出して、「クルマがめざす未来」を描き、舵をとっていくのは、意志を持つ私たちなのです。「できないから、やるんだ」。本気の挑戦は、もう始まっています。

所属は取材当時のものです。

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