開発したい?10年早い まずはボデーで鍛えろ

「夢は必ず叶うもの」。これまで数々の夢を実現して、いまだ夢の途中でもあるエグゼクティブチーフエンジニア(ECE)の山本。入社当時、彼もクルマづくりに夢を抱いた若者の一人でした。

自動車メーカーに入社したからには、自分で企画したクルマを世に送り出したい。入社当時から、クルマづくりを統括するチーフエンジニア(CE)になるのが私の大きな夢でした。当時、クルマの企画は製品企画室が担当。私は配属希望を聞かれたときに迷わず「製品企画室に行きたい」と答えました。すると「甘い!10年早い!」と追い返された。まず他の部署で修業してこいというわけです。だったら、とにかくいろいろな部品の名前が覚えられる部署に行きたいと思い、ボデー設計部へ。ボデーは家でいうと家屋そのもの。建物がしっかりしていないと、家具も電化製品も入れられない。まずは土台をしっかりつくる技術を学びながら、自動車に使われる部品や仕組みを一つひとつ覚えていきました。

「10年早い!」と言われた山本でしたが、意外にチャンスは早く巡ってきました。入社3年目、当時の上司とともに製品企画部へ異動。ボデー設計で学んだ知見をベースに、初代LS400(セルシオ)やクラウンの開発を通して幅広く技術力を磨きながら、2003年、ついにCEへ。クルマづくりの陣頭指揮に立つことになったのです。

いつかはクラウンのチーフエンジニアに

CEとしてマークX、アベンシスを担当。実績を積み重ねてきた山本に、当時のセンター長は「次は何をやりたい」と問いました。山本は、即答しました。「トヨタに入社したからには、クラウンをやりたい」と。

2009年1月、14代目「クラウン」のCEに就任しました。1955年の発売以来、半世紀にわたって走り続けてきたクラウンというブランドは、トヨタの財産とも呼べるべきもの。その重みを尊重し、これまで築いてきた数多くのお客様の信頼にお応えしながらも、さらに期待を超えなければならない。そこがクラウンを開発する難しさです。今回のモデルチェンジで、どんなクルマに変えていくのか。4年後、お客様にどんな驚きと喜びを提供するのか。その答えは市場にあります。販売店の声、お客様の声、市場調査…。丁寧に現行モデルの課題を洗い出し、要望や期待を探る。その中から、次のコンセプトが見えてきます。方向性を決断し、多くの人を説得して仲間に引き込みながらつくり上げていく。それがCEの使命であり醍醐味でもあるのです。

「ハイブリッドエンジン(HV)をメインにする」「水平の躍動感あるデザインにこだわる」…市場の声に耳を傾けながら、新たな革新の輪郭が浮かび上がってきました。しかし、そこは伝統あるクラウン。革新への道のりは平たんではありませんでした。

市場の要望は、まさにHV化でした。実は先代クラウンにもHV仕様はありましたが、販売価格が600万円を上回っていたために、販売台数の10%ほどしか売れなかった。450−60万円で、HVを実現する。これが新型クラウン開発に対して下した決断でした。さあ、どう革新していくのか。私は思い切って、先代のV6エンジンから2.5L直4のエンジンに変えようと思いました。しかし、周囲は大反対。「クラウンに4気筒エンジンなんて」と、販売店や社内からも声が上がりました。クラウンらしさがなくなるのではという懸念が大きかったからです。でも実現方法はこれしかない。「クラウン品質は絶対に確保する」。そう啖呵をきって私は前に進めました。

デザイン、HVエンジン、装備… 鮮やかな革新へ

山本のもとに、ハイブリッド分野とエンジン分野のエンジニアたちが集結。お互いに創意工夫をしながら、ついに2.5L直4のHVエンジンが完成。懸念されていた騒音振動もバランスシャフトなど振動制御技術などを用いて、静かで滑らかなクラウン品質をクリア。また世界トップクラスの熱交換率を実現して燃費性能を大幅に向上。山本いわく「このエンジンは、今後のFR車のメインストリームになります」。しかし問題はそれだけではありませんでした。もうひとつの重要な革新の要素。そう、デザインです。

個人的には、クルマはデザインで決まると思っています。だからこそ徹底的にこだわらなければならない。先代クラウンは、スポーティーな“アスリート”とラグジュアリーな“ロイヤル”の差がわかりにくかった。今回は明確に分けることが必要だと感じました。アスリートは走りの良さがわかるような稲妻のような凄味を、ロイヤルは王冠をモチーフに威厳ある顔つきにしました。また特にこだわったのがサイドビュー。“水平の躍動感”をテーマに、前から後ろまで一直線にスッと切れるような、水平基調でのびやかなデザインを実現したかった。私のこだわりも相当ですが、その上をいくのが豊田章男社長。「感動がない。ダメだ」「スケッチは良いのに、クレイモデルが全然違うじゃないか」と、指摘されました。デザインの難しさは、例えばサイドビューでいえば、1800mmという制限の中で室内の幅を確保しながらボリューム感をどう表現できるか。キャビンやドアなど位置取りなど数mmのせめぎ合い。これらのデザインを実現するために、最終的に横幅を5mm、縦を25mm伸ばしました。日本の生活環境や使われ方を考えるとこれがギリギリのライン。結局、デザイン全体が固まるまでに2年間は費やしましたね。このデザインができ上がったとき、社内の役員たちは「なんと、これは…」と、言葉にできない様子でした。これまでのクラウンの次元を超えていたんでしょうね。

モチーフに威厳ある顔つきにしました。また特にこだわったのがサイドビュー。“水平の躍動感”をテーマに、前から後ろまで一直線にスッと切れるような、水平基調でのびやかなデザインを実現したかった。私のこだわりも相当ですが、その上をいくのが豊田章男社長。「感動がない。ダメだ。」「スケッチは良いのに、クレイモデルが全然違うじゃないか。」と、指摘されました。デザインの難しさは、例えばサイドビューでいえば、1800mmという制限の中で室内の幅を確保しながらボリューム感をどう表現できるか。キャビンやドアなど位置取りなど数mmのせめぎ合い。これらのデザインを実現するために、最終的に横幅を5mm、縦を25mm伸ばしました。日本の生活環境や使われ方を考えるとこれがギリギリのライン。結局、デザイン全体が固まるまでに2年間は費やしましたね。このデザインができ上がったとき、社内の役員たちは「なんと、これは…」と、言葉にできない様子でした。これまでのクラウンの次元を超えていたんでしょうね。

伝統の王冠グリルをバンパーまで抜いたインパクトあるデザイン。コンパクトカー「ヴィッツ」をも上回る低燃費を実現したHVエンジン。追突防止のプリクラッシュセーフティや追従式オートクルーズなど安全性を確保する数々のハイテク装備。2012年12月、気高いブランドを守りつつも、今の時代にマッチする鮮やかな革新を遂げた14代目クラウンは、衝撃のデビューを果たしました。
そのデビューに華をそえたのが「ピンクのクラウン」の存在。アスリートをベースにしたピンクのクラウンは、これまでの殻を打ち破った革新の象徴であり、また、女性や若い人たちへアプローチするためのイメージ戦略でもありました。狙い通り、ピンクのクラウンを中心に話題は広がりを見せたこともあり、販売台数においても高いレベルで好調を維持しています。
クラウンとは何か。山本はこう答えます。「クラウンといえば、伝統という保守的なイメージが強いかもしれません。しかし、その本質は保守ではなく、革新。クラウンこそ革新に挑戦し続けてきたクルマなのです」

自分の夢を、自動車という媒体にのせて

自動車をつくるエンジニアにとって、絶対に必要なものはなにか。山本は言います。「夢を持つこと。そして、必ず叶うと思って取り組むこと」。実は今回のクラウンでも山本は10年以上前から考えてきた夢を実現させました。

クルマに乗り込み、真っ暗なインパネに手を伸ばすと、パッと明るくなって目覚める。自分のやりたいことがスイッチとして浮き出てくる。今でいうスマートフォンのような世界観を2000年ぐらいにつくりたいと思った。当時、電子技術の担当に相談すると「そんなものできるわけないじゃないですか」と言われました。でもいつかは絶対にやろうと。この開発を始めた2009年にはだいぶ技術も進んでいたので、絶対に実現してやろうと思った。それが今回の革新のひとつでもある「トヨタマルチオペレーションタッチ」です。大小2つのモニターを使い、タッチパネル式で車両設定や空調、オーディオなどすべてが簡単に操作できるようにしました。固定スイッチが消えた分、インパネまわりのデザインもよりシンプルになりました。本格的なタッチパネル式を採用したクルマはこのクラウンが初めてです。しかし、本当はまだまだ満足していません。究極は、脳で考えたことが、パッとモニターにでてくるものがつくりたい。エアコンの温度を下げたいな、と思ったら、空調のスイッチが出てくるとか。いいと思いませんか。クルマはハンドルやシートから、脳波や脈拍などいろいろな人体の情報を得られるわけです。そういう意味ではクルマはいつか病院になる。本気でそう思っているんです。考えている未来は絶対に実現できる。それが5年先か10年先かはわからないですが、夢は必ず叶うはずなんです。
私は若手エンジニアに言い続けています。夢を持て、絶対に叶えてやると思い続けて取り組め、と。自分の夢を、自動車という媒体を使い、技術を通して世の中に出していく。それこそがエンジニアのあるべき姿ではないか。私はそう思います。

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